特別対談

特別対談
トークテーマ

岡山の介護を語る

 少子高齢化の進展により、要介護の認定者数は年々増加しています。2025年には、国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になり、岡山県だけでも約4千人の介護人材が不足すると見込まれています。
 今回、ケアワーク専門のフォトライターであり、実母の在宅介護の経験を持つ野田さん、社会福祉関連団体を代表して、福祉施設から守安さんと小森さんをお招きし、介護・福祉の魅力を語ってもらいました。

対談者

野田 明宏
小森 弥彦
守安 伸聡
ケアワークフォトライター
社会福祉法人ますみ会
特別養護老人ホームますみ荘 施設長
社会福祉法人雪舟福祉会
シルバーセンター セレーノ総社
特別養護老人ホーム 事務長
野田 明宏

PROFILE

2002年から約10年間、認知症を患った実母の在宅介護を行った。その経験を活かし、現在は介護現場を取材する「ケアワークフォトライター」を生業として活躍している。

小森 弥彦

PROFILE

1999年に「特別養護老人ホームますみ荘」に入社。事務員、生活相談員、事務局長を経て、現在は施設長を務める。学生やボランティアを施設に受け入れるなど、地域貢献を図っている。

守安 伸聡

PROFILE

雪舟福祉会の特別養護老人ホームで、約7年間、介護職を経験。法人本部の事務長を務める。平成30年7月豪雨後には、被害を受けた地元の復興支援に尽力している。

野田 明宏
ケアワークフォトライター
野田 明宏

PROFILE

2002年から約10年間、認知症を患った実母の在宅介護を行った。その経験を活かし、現在は介護現場を取材する「ケアワークフォトライター」を生業として活躍している。

社会福祉法人ますみ会
特別養護老人ホームますみ荘 施設長
小森 弥彦

PROFILE

1999年に「特別養護老人ホームますみ荘」に入社。事務員、生活相談員、事務局長を経て、現在は施設長を務める。学生やボランティアを施設に受け入れるなど、地域貢献を図っている。

小森 弥彦
守安 伸聡
社会福祉法人雪舟福祉会
シルバーセンター セレーノ総社
特別養護老人ホーム 事務長
守安 伸聡

PROFILE

雪舟福祉会の特別養護老人ホームで、約7年間、介護職を経験。法人本部の事務長を務める。平成30年7月豪雨後には、被害を受けた地元の復興支援に尽力している。

CHAPTER 1

介護分野に精通する3人の仕事とは

野田 明宏

―まず、皆さんのお仕事についてお伺いします。野田さんのケアワークフォトライターとは、どのようなお仕事でしょうか。

野田
ケアワーク、つまりケアに関わる写真を撮って記事にする仕事です。「ケアワークフォトライター」という肩書で活動している人は、国内で私だけじゃないですかね。介護関係の方から「ケアワークフォトライターってどういう仕事ですか?」と問われることが常ですから。

―そういえば先日、写真集を出版されたそうですね。「ケアワークフォトライター」として活動された実績なのでしょうか。

野田
そうです。2020年5月に写真集『オレが覗いて来た介護最前線』(吉備人出版)を出版しました。介護施設や在宅介護するお宅を訪問して、食事や入浴の介助から看取りの一部始終までを掲載しています。

―撮影技術はどこで学ばれたのですか?

野田
すべて独学です。学校や写真事務所などに通って、基礎から学んだことはありません。長年、介護施設などを訪れ、その現場に寄り添ってきたからこそ、信頼してもらい撮影することができました。どんなに素晴らしいテクニックがあっても、看取り介護の様子なんてなかなか撮らせてもらえないですからね。「野田さんならいいよ」ってことで撮らせていただいています。

―お二人が所属する団体は、どのような団体ですか?

小森
私は社会福祉法人経営者協議会(略:経営協)から参りました。経営協は、高齢・障害・児童分野など福祉事業を担っている社会福祉法人で組織された団体です。団体の活動は、政策提言や研修会などを実施するほか、災害時に福祉的支援をする災害派遣福祉チーム(DWAT)の活動も行っています。私の所属する経営青年会では、福祉の仕事を広く知っていただくために「福祉紹介キャンペーン」などの活動を行っています。
守安
私は老人福祉施設協議会(略:老施協)から参りました。岡山県内にある約400の高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンター、老人保健施設)で組織されています。施設・地域ごとで、会員内の情報交換や研修などをすることで施設同士の繋がりづくりをしているほか、介護の仕事を広く知っていただく為に「カイゴ男子カイゴ女子発掘プロジェクト」や「輝くkaigoの人たち写真展」、「広報誌(B-OK!)の発行」などに取り組んでいます。
CHAPTER 2

「あんたと一緒がええんじゃ」という言葉で頑張れた、
10年にもわたる在宅介護

―野田さんはかつて仕事をされながら、お母さまの在宅介護をされていたそうですね。

野田
和ちゃん(野田氏の母)がアルツハイマー病と確定診断された2002年から約10年間、亡くなる直前まで在宅介護をしていました。仕事の関係で、一時的にデイサービスやショートステイなどを利用することもありましたが、それ以外は自宅で和ちゃんを介護していました。
守安
10年間は長かったですね。特別養護老人ホームなど入所系のサービスを利用することは考えなかったのですか。
野田
しませんでした。和ちゃんのことが愛おしかったから、少しでも長く一緒にいたかったからです。私の場合は介護を始めてから愛おしいという思いがますます強くなってね。でも、実は私、介護疲れから和ちゃんに手を上げたことがあります。それも何度も。和ちゃんは呼吸苦でしたから、いつ苦しみ始めるか分からないという不安でまともに寝られません。「アーアー」と大きく叫ぶこともあり、ご近所さんに迷惑かけないか心配で。眠れない日が続きました。
守安
大変でしたね。疲れが取れなかったのではないですか。
野田
そうです。気づけば平常心を失っていて、問題行動が病気によるものだと頭では分かっているのに、思わず手が出てしまいました。だから少し離れた方がいいと思って、和ちゃんに「今日は施設に泊まってくれる?」って相談しました。そうしたら「叩かれてもいい。あんたと一緒がええんじゃ」と予想外の言葉を言われて、ズキーンときましてね。私に助けを求めてくれる和ちゃんが愛おしくなり、入所系のサービスを考えず在宅での介護を続けようと決めました。
小森
愛おしく思う気持ち、そして介護疲れ、私たちはそのことをしっかり受け止めなければならないと思っています。
野田
そのように施設の人に思ってもらえるのは、家族としてはありがたいですね。
CHAPTER 3

少子高齢化という社会情勢から介護人材は貴重な存在に

―では続いて、介護業界の現状をお聞かせください。介護業界は慢性的な人材不足というイメージを持つ方が多いのかなと思います。皆さんはどのように思われますか。

野田
実は私、4年半ほど介護現場に勤めたことがあります。一通りの業務を経験しましたが、大変な部分もありました。技術もなく、若くないせいか腰を痛めてしまい、辞めてしまいましたが……。介護職は、受け入れの間口が広いので働き始める人が多いかもしれません。ですが介護の仕事は決して楽ではなく、待遇がいいとも思えませんでした。サービス残業も多いイメージがあります。それだけ介護の現場で働く人は、人柄のいい人たちということかも知れませんね。
小森
その人柄に甘えてはいけないと思っています。働きやすい環境や生活の安定を経営者は考え続ける必要があります。待遇に関して以前はそうだったかもしれませんが、今は国をあげて介護職員をバックアップしています。「介護職員処遇改善加算」などにより賃金アップやキャリアアップの仕組みがどんどん改善され、給与も上がっています。労働環境もICTや介護ロボットの導入により負担が軽減されています。それに「介護業界は離職率が高いがゆえに人材不足」というのも誤解で、介護人材の数を見ると減るどころか、少しずつ増えています。つまり介護人材の増えるスピードが、高齢者の増えるスピードに追いついていないってことですね。ですから私たちは、介護の業界に来たいと思ってくれる人をもっと増やすことが任務だと思っています。

―では具体的にどのようにアピールされているのでしょうか。

守安
私たちが重要視しているのは、まずは介護業界に関心を持ってもらうことです。そこで私たちの団体では小学生や中学生を対象に、施設見学や車椅子体験などを通して、介護の現場を知ってもらう「職場見学ツアー」や、どんな人が介護業界で働いているのか知ってもらう「カイゴ男子カイゴ女子発掘プロジェクト」というファッションショーなども開催しました。また、コロナ禍の中でも「輝くkaigoの人たち写真展」として、介護現場の日常を切り取った写真展なども開催しています。少しでも介護業界に関心を持ってもらえるよう働きかけています。

―働き手は確保できても、その職場に定着するかは指導方法が大きく関係すると思います。何か工夫はされていますか。

小森
多くの施設がマンツーマンで教育を行っています。私のところではプリセプター制度というものを取り入れています。できるだけ年齢や経験の近い先輩スタッフを付け、指導する側とされる側がともに成長するのが狙いです。これに加えてシニアアソシエイト制度というのもあり、経験の豊富な先輩職員が、指導する側とされる側両者をサポートします。人材育成は大切なことですから、どのように人材を育成すれば良いかを手探りで一生懸命にやっているところです。きちんと育成ができていなければ、ご利用者様に適切なケアができませんからね。
CHAPTER 4

日本の介護業界を救う!? 増加している外国人介護人材の実態とは

―現在、日本で就労している外国人介護人材の数は年々上昇していますが、岡山県内の福祉施設でも、外国人介護人材を採用する施設は増えているのでしょうか。

守安
働き手が不足している今、外国人介護人材に注目が集まっています。外国人の介護人材を受け入れる制度は増え、今は「EPA(経済連携協定)制度」「技能実習制度」「特定技能」「介護留学生」など主に4つのルートがあります。

―何が違うのですか。

守安
それぞれ、働く条件や内容など変わってきますが、基本的には外国の方が日本で介護の知識や技術を学ぶのが目的です。しかし、実際には労働力として受け入れしているところがほとんどだと思います。特に最近増えているのが「介護留学生」です。介護の専門学校に通いながら介護施設で働き、卒業時に「介護福祉士」の国家資格を取得することで、永続的に日本で働くことができるようになります。また、資格取得ができなくても5年間は介護福祉士と同様に働くことができる経過措置がとられています。それを見越して学費の支援などしているところも増えています。
小森
今後、人材不足が加速すると考えたら、今のうちに外国人介護人材の受け入れ体制を整える必要があると思い、約1年前に介護留学生をアルバイトとして採用しました。仕事を覚えてもらうまでは大変な部分もありましたが、職場にすぐ馴染みましたし、ご利用者様やご家族の皆様も応援してくれています。丁寧さ誠実さに、逆に勉強させてもらっています。受け入れて良かったなと思っています。
守安
私のところでも「EPA制度」と「特定技能」でフィリピン人の方が活躍しています。今では夜勤もしてもらい、しっかり戦力になっています。今後は「技能実習制度」での受け入れも決まっています。
野田
外国人を受け入れることの何が大変って、言葉の違いじゃないですか。日本で介護福祉士の試験を取るっていうことは、まず日本語を理解して漢字を読めるようにならないといけないですから。
守安
確かに、日本語の勉強は大変です。ひらがな・カタカナ・漢字だけでなく、方言なども勉強しないと会話ができません。また、日本語を勉強中でうまく話せないことを周知しておかなければ、職員やご家族から心配の声があがってしまいます。ですから、事前に外国人介護人材を受け入れるための説明会を開くなどしました。言葉の壁はありますが、明るく素直でひたむきに頑張る姿は職場に良い影響を与えていると思います。
野田
外国人労働者を受け入れることの良さの一つは、面白いレクリエーションをやってくれることじゃないですか。楽器を使って歌ったり踊ったり民族舞踊など披露できるのは、外国人ならではですよね。
CHAPTER 5

新型コロナウイルスのため介護現場が一変。
そこから介護者と被介護者が“スキンシップ”する大切さを再認識

―昨今のコロナ禍で、介護現場も一変したのではないですか。

野田
私は立ち入り規制が厳しく、取材や撮影などに行こうにも、なかなか入れてもらえないですね。
小森
どこもそうだと思います。高齢者施設は集団感染や重症化、重篤化のリスクが非常に高いので、私のところでもご利用者様にも職員にも強い制限を設けるなど心苦しい状況が続いています。例えば面会です。パソコンなどを介したウェブ面会か、アクリル板やビニールカーテン、窓を挟んだ面会のどちらかです。
守安
私の施設では看取り介護の方の面会はしていただいていますが、それ以外の方はほぼウェブ面会ですね。職員にも密を避けるようお願いし、遊びに行くのも自粛してもらっています。県外などどうしても遠方に出ないといけないときは、事前に申告をしてもらっています。
野田
冠婚葬祭とか仕方ないですもんね。帰ってきたら自宅待機するのですか。
守安
場合によりますが、帰ったら最大2週間は自宅待機です。集団感染のリスクが高い高齢者施設は、ご利用者様も職員も長い間にわたって自粛を余儀なくされているのが現状です。
野田
介護の特性は、“触れ合う”ということだと思っていて。もしウェブ面会などICT化が当たり前になってしまったら、介護現場で触れ合うということがなくなってしまうじゃないですか。私はその状況になることを恐れています。
小森
今は、ICTや介護ロボットをうまく取り入れていく時代です。ウェブ面会があると、遠方に住むご家族の方ともお話できますからね。でも私も、人と人のスキンシップはとても大切だと思っているので、今はご家族となかなか会えない中、お手紙や写真を送るなど少しでも近くに感じていただくように努めています。もちろん、介護現場でも同様です。職員とご利用者様が触れ合う機会を増やしていくことを忘れないようにしています。
守安
ICT化は、機械やシステムの導入などにより冷たいイメージを持たれますが、実際にはご利用者様に直接関わること以外の間接的な業務を効率化することが目的です。効率化によって空いた時間をご利用者様と職員が“触れ合う”時間にする。そういったICT化ができればと考えています。
CHAPTER 6

ご利用者様の「ありがとう」がやりがいにつながる介護職

―最後に、皆さんにとって介護職とはどのようなお仕事でしょうか?

小森
人の人生に直接関わるとても尊い仕事です。そしてクリエイティブでもあり常に進化している奥の深い仕事、一言では言い表せない魅力があります。とてもやりがいのある仕事だと思います。
守安
介護の仕事は地域貢献や社会貢献にも大きくつながる仕事です。このような仕事は他にはないと思います。そして、非常にありきたりですが、介護職として良いところは、ご利用者様に「ありがとう」と感謝されること。これに尽きると思います。
小森
本当にその通りです。うちの職員がご利用者様に「ありがとう」と言われて喜んでいる姿を見ると、私まで嬉しくなります。
野田
介護は立派な仕事です。今回の対談で私が持つ介護職のイメージが変わりました。今は賃金や教育体制、職場環境もどんどん変わっているのですね。介護職はやりがいのある魅力的な専門職であると多くの方に知ってもらいたいですね。